本来なら長所であるはずの素直で軽やかな性質は、男女関係がからむと誤解を受けやすいものです。
時々はちょっと立ち止まり、この恋に自分を投入してもよいのかどうか、よく考えてみてはいかがでしょう。
その時、ほんのちょっとたじろぐだけで、あなたはあなたの恋に陰影を持たせることができます。
どんなに惚れっぽいからといって、自分で自分を安売りすることはありません。
始まりを慎重にしたからといって、その恋が色あせるはずもありません。
「この恋にかけよう」、そう思った時だけ、あなたは自分の持つ素直さと軽やかさを全開にして、ぐんぐん前に進めばいいのです。
中途半端な関係を何とかしたい。児童心理学の本で「ハーロウの実験」というのを読んだ時、「ふふーん、なるほど。これって、好きな人を振り向かせるのにも役に立ちそう」と思い、早速、ある女の子に話すことにしました。
彼女はその頃、うまくいかない恋に思い悩んでいたからです。
大学の同級生のことが好きで好きでたまらないのに、彼のほうは煮えきらない態度のままらしいのです。
私を含め周囲は二人をカップルだと思っていたのですが、実際には結婚相手のような友達のような、中途半端な関係が続いているというのです。
おぼわらふつとう溺れるものは藁をもつかむといいますが、煮えきらない彼の心を沸騰させるためだったら何でもしようと、彼女は思い詰めているようです。
卒業を控えているので、その前に二人の関係をなんとかしたいと焦っているのです。
就職したら、学生時代のように頻繁に会うわけにはいきません。
彼の心をつかんでいるという自信がないだけに、会えなくなると同時に、二人の恋も立ち消えになるのではと、怖くてたまらないようです。
「ねえねえ、早く教えてください。そのハローの実験とかいうやつ。何を襟えればいいの」彼女は私をせきたてます。
「ハローじゃないって。ハーロウっていうの。それからね、何も揃えなくていいの。薬品を使うわけじゃないんだから」
「じゃあ、何。どうすればいいんですか」ハーロウの実験というのは、サルを使ったものです。
赤ん坊のサルをそれまで知らなかった新しい環境に入れたとします。
まるめた紙や布、積み木などが床に散乱する見知らぬ部屋です。
当然、サルはおびえます。
ところが、毛布でできた母親がわりの人形と一緒に入れると、赤ん坊ザルは最初のうちこそ人形にしがみついているものの、しばらくすると、新しい部屋の探索を始めるといいます。
床の上にあるものに艦ってみたり、においを喫いだりするのです。
途中、怖くなるとあわてて人形のところに帰りますが、だんだん、環境に慣れてきて、やがては全く怖がることなく、部屋を歩けるようになるのだそうです。
ところが、人形を入れずに、たった一匹で入れられたほうのサルは部屋の隅にうずくまって、鳴くばかり。
こうなると、いつまでたっても新しい環境に慣れないのだそうです。
つまり、安全基地となる母親人形という存在なしには、怖さにすくみ、行動を起こせないというわけです。
ハーロウは子育てにおいて、母親が心の拠り所になるのがいかに大切かを説いているのですが、私はこれを異性との関係に応用できると、勝手に考えたのです。
心理学の専門家にはお叱りを受けるかもしれませんが、大人だって、新しい環境を前にすると恐怖を感じます。
その点では幼いサルと同じです。
まして、初めて社会に出る時、多くの人が情緒不安定に陥ります。
「ホント言うと、震えるほど怖いんですよ」と、打ち明けてくれた男の子の何と多いことでしょう。
見た目は大人でも、彼らにはまだけっこう幼いところが残っていますから、それも当然です。
学校という場所を離れて初めて社会に出るのは、やはり大きなプレッシャーになるのでしょう。
彼女が好きな人もそうした不安に苦しんでいるに違いない。
私はそう感じていました。
彼は優しくハンサムな今風の若者ですが、その分、ちょっと頼りないところがあるからです。
就職活動もそれほど順調に進んではいないといいますし、彼にしたら、結婚相談所で知り合った結婚相手との関係をはっきりさせる余裕などどこにもなかったのでしょう。
彼に限らず、進路を決める時、新しい環境に踏み出す時、多くの人はとまどうものです。
何とか頑張ろうと思う反面、後ずさりしたくなっても当然です。
そんな時、自分には帰っていく場所があると思えることは、救いになります。
それだけで、随分、生きやすくなるでしょう。
フカフカしたぬいぐるみのサルの存在は、子供にばかりでなく、すべての迷える子羊たる人間に、大きな力を与えるに違いありません。
「だからね、今はそれでなくても進路で迷っている彼を追いつめたりしないほうがいいと思うの。そのかわりに、彼のぬいぐるみのサルになってあげたらどうかなあ。あなたは元々、母性愛豊かだし、適役だと思うんだけど。『キミといると勇気がわいてくる』って、言ってもらえるような存在になればいいわけよ」私は熱弁をふるいました。
自分のことでもないのに、馬鹿みたいですが。
彼女はフンフンとうなずきながら聞いてくれました。
そして、「そうかあ、私、自分のことばっかり考えていて、彼がどんな気持ちでいるかまで気が回っていなかったかもしれないなあ。ただ、サルのぬいぐるみになると、彼の結婚相手じゃなくて、お母さんになっちゃうんじゃないかって、それだけがちょっと心配」という意見を述べたのでした。
確かに、そうかもしれません。
なにせ、ハーロウの実験は、母親の役割の大切さを証明したものなのですから。
けれども、それならそれでいいじゃないかと、私は思います。
多くの男は心のどこかでママになってくれる人を求めているはずですから。
結局、その後、彼女が彼専属のぬいぐるみのサルになろうと努力したのかどうか、私は知りません。
ただ、彼の結婚相手になったことは知っています。
「私のアドバイスが役に立ったのであーる」と、自慢したいところですが、そんなはずはなく、きっと、彼女の熱意が、煮えきらない彼の心に届いたということなのでしょう。
学生時代から付き合ってきた恋人の心を、卒業を前にしてしっかりとらえたいと焦り始める女の子は、彼女の他にもけっこう多いようです。
タイムリミットが迫って初めて、彼の大切さに気づくのでしょう。
ところが、友達になりすぎてしまい、今さら好きだなんて言えない場合があります。
確かに、あまりにフランクに付き合っていると、今さら恋だの、愛だの、まして結婚だなんて、言い出しにくいということはあるのかもしれません。
もし、あなたが同じ悩みを持っているなら、彼がリクルートスーツに身を包んだ時をねらってみてはいかがでしょう。
着慣れないスーツを着て、会社訪問に歩く時、多くの男の子が不安のあまり、心の中でフワフワしたサルをさがしていると思います。
そんな時そばにいて、不安な彼に「大丈夫よ。きっとうまくいくわよ」と、ささやいてごらんなさい。
やさしさの呪文を唱えるのです。
ストレートボールはもう少し待って強烈な殺し文句というのがあります。
どんなに照れ屋な男でも、一生に}度くらいは、そうした言葉を吐くものでしょう。
シャイなだけになかなか教えてもらえませんが、一緒にお酒を飲んでいる時などに、酔いにまかせて、結婚を決心させたひとことだとか、恋人を涙ぐませた台詞などを打ち明けてくれることがあります。
普段は無口な人に限って、クラッとくるほど効果抜群の台詞を吐いていることが多いので、おもしろいものだなあと、思います。
けれども、そうした台詞は効き目が抜群なだけに、気をつけて使わないと、失敗も多いのではないでしょうか。
切れ味鋭い薬が、かえって病人の体を弱らせてしまうこともあるように、何事も、強すぎるのは考えものということです。
それと同じで、強烈な殺し文句も使い方を間違えると、失敗します。
好きな人を振り向かせるどころか、彼をおびえさせ、離れさせてしまう場合もありますから、使い方には気をつけなければいけません。
私自身は、残念ながら、強烈な言葉でかきくどかれたことなどほとんどないのですが、それでも、一度だけ、張りつめた表情で「二十四時間、キミのことを考えているんだ。一日中、一秒も休みなく、ずっとキミのことだけを思っているんだ」と、言われたことがあります。
私だって女ですから、そう言われた時は、正直言ってとても嬉しかったのです。
「私のことを真剣に見つめてくれる人なんてもういないんだわ」と、寂しく思うようになっていた矢先だったので、彼の台詞は効果抜群でした。
心臓がドキドキして、血圧があがり、奥歯をぎゅっとかみしめていないと、唇が震えてしまいそうでした。
けれども、それと同時に、怖くもありました。
あまりにまっすぐな直球をどう受け止めていいのか、わからなかったからです。
ですから、私は答えました。
かろうじて出たかすれ声で、「からかうのはやめてください」と。
以来、彼には会っていません。
その時の私には、熱い言葉は負担だったのです。
内心は嬉しかったけれど、やはり怖かった。
以来、強烈な台詞は最後にとっておいたほうがいいと、思うようになりました。
言葉というのは、受ける相手の状態や、交わされる相手との関係によって、その性質を変えるものです。
特に、殺し文句は効果があるかわりに、文字どおり相手を殺しそうになることもあるでしょう。
これは男女を問わず言えることです。
いくら恋しい相手に振り向いて欲しくても、あまりに激しい言葉をぶつけるのは考えものです。
好きだと思う気持ちはもちろん大切ですが、まだ始まっていない恋の相手に強烈すぎる言葉は逆効果になりかねません。
知り合いの男の子も、ガールフレンドが思いつめた表情で「あなたから一生離れない」「絶対あなたと一緒になるの」と言った時は、ぞっとしたといいます。
「俺、びびっちゃつた。小便、漏れそうだった」とまでいうのですから、よほど怖かったのでしょう。
相思相愛の関係にすでになっているならともかく、まだ恋のファースト・ステップの段階にいる時は、重すぎる言葉をぶつけるのは充分な注意が必要です。
相手のことが好きだったら、恋しい人の負担にならないよう、じっくりゆっくり言葉を紡いでいきたいものです。