彼は最近いつも約束の時間に遅れがち
「好きな女は待たせない」心意気好きな人の心を何とかして自分のものにしたいと願っているうちは、デートに遅刻するなんて考えられないことでしょう。
一分でも早く会いたい人を待たせるなんてこと、できるはずがありません。
私なんて、待ち合わせ場所にすでに着いていながら、彼が来るのが待ち遠しく、その場で足踏みしたものです。
ところが、晴れて彼を自分のものにしてしまうと、けっこうルーズになっていく。
いやあ、慣れというのは、実におそろしいものです。
足踏みしながら彼を待った日があったことも忘れ、平気で彼に貧乏ゆすりをさせるようになるのですから。
けれども、油断は禁物です。
彼の心を自分のものにしておくためには、やっぱり努力が必要です。
元々、恋は始めるよりも、続けるほうが難しいもの。
いったん結婚したからといって、それが永遠に続くとは限りません。
そういえば、私がまだ受験生の頃、友達と「継続は力なり」と言い合ったものです。
大手の予備校が掲げていた標語なのですが、勉強は毎日休まず続けるところに意義があるというわけです。
受験勉強だけでなく、恋を保たせるためにも、この「継続は力なり」は大切です。
恋を持続させるには、まさに日々の努力がものを言うのですから。
お互い、いい気になりすぎてはいけません。
それには、まず、デートに遅刻しないようにする、これが大切です。
あなたはついうっかり遅くなっただけでも、待っているほうからすると、けっこう辛く長い時間なのですから。
「遅れそうだけど、ポケベルを入れておけばそれでいいや」という態度も感心しません。
確かに、ポケベルのメッセージによって、イライラ度を減らすことはできますが、だからといって、遅刻してもいいはずがありません。
この間、うちに来た女子大生にポケベルを見せてもらったら、設定文として「遅れます」というメッセージが優先されていました。
それだけ、待ち合わせに遅刻した時に利用する人が多いということなのでしょうが、いくら便利だからといって、結婚相手にはあまり頻繁に使わないようにしましょう。
いつもいつもそのメッセージを使うようでは、恋心を疑われてしまっても仕方ありません。
私がそんなことを考えるようになったのは、「好きな女は待たせない」と、言いきった人に会ってからです。
一年ほど前のことです。
私はホテルのロビーで待ち合わせをしていました。
ところが、相手の人がなかなかやって来ません。
私はだんだん心配になってきました。
約束の時間を間違えたのだろうか、もしかしたら待ち合わせの場所はここではなかったのではないか等々、不安は不安を呼んでいきます。
念のためにと思い、手帳を開いて確認してみたのですが、やはりABホテルのロビーに午後四時となっています。
書き間違えていないかぎり、ここでいいはずです。
けれども、もしかしたらロビーが二つあるのかもしれないとも思いました。
私はあまり外出しないので、こうした情報にうとく、皆が当然知っているようなことを知らない場合がよくあるからです。
そこで、隣のソファに座っていた中年の男の人に聞いてみました。
「あのう、このホテルにはロビーは一つしかありませんよね。
ABホテルのロビーといったらここのことですよね」何せ見ず知らずの人ですから、私はおずおずと質問しました。
すると、彼は「そうですよ」と、うなずいた後、「あなた、さっきからもう二十分もそこで待っていますね。気の毒に。僕がこんなこと言うのもなんだけど、そんな人とは別れたほうがいいよ。待ってることなんかないんじゃないの」と、言うのです。
私は思わず笑ってしまいました。
私が待っていたのは女の友達だったからです。
「いえ、私、デートじゃないんです。残念ながら、待ってるのは女の子で。それに、彼女、遅刻魔で、いっつも遅れてくるんです。だから、私、彼女を待つの、慣れてるの」それでも、彼は自説を曲げません。
穏やかな声ではあったものの、「じゃあ、その人と友達でいるの、やめたほうがいいな。
余計なお世話かもしれないけど、僕はそう思う。
だって、あなたのこと大切に思っていたら、そんなに遅刻して平気なはずがないだろ」などと、言い出すのです。
言われてみれば、いつもいつも私を待たして平気でいるのは、私を大切に思っていない証拠なのかもしれません。
まして、これが結婚相談所で知り合った交際相手だったら、やはり、自分が愛されていないと疑いたくなるでしょう。
彼の言う通り、いつも私を待たせて平気な人とはさよならしたほうがいいのかもしれないと、私は考え込んでしまいました。
けれども、よく考えてみると、彼だって誰かを待っています。
私が来た時、彼はすでにロビーに座っていたのですから、かなり長い時間待たされているはずです。
もし、彼の説が正しいとするなら、彼も、自分を大切に思っていない人と待ち合わせしていることになります。
自分のことより、彼に興味を持ってしまった私はつい言ってしまいました。
「でも、あなただって、先ほどからずっと誰かをお待ちですよね。相手の方、随分、遅刻してますよね」と。
ところが、彼は動揺もせず、のんびりした声で答えるのです。
「僕はね、好きな女は一分たりとも待たせたくないんでね。だから、待ち合わせした時は、必ず三、四十分前に来ることにしてるんですよ。だから、彼女は遅刻しているわけではないんだよ。僕が勝手に待ってるの」
胸がジンと熱くなった私は思わず、「えー、うらやましい。いいなあ、あなたの恋人手」と、叫んでしまいました。
おそらく、ヨダレが出そうな顔をしていたことでしょう。
すると、彼はまたまた私をジンとさせることを言いました。
「やだなあ、僕が待ってるのは、恋人じゃないよ、女房だよ。これから一緒にメシを食いにいくんだ」
私のジンがジーンになって、ほとんど涙ぐみそうになっているところへ、ようやく待ち人たる友達がやって来ました。
「千代田さん、ごめんなさいねえ、出がけにちょっと手間どっちゃって」と、汗をふきながら……。
「では」と頭を下げて、私は立ち上がり、彼女と一緒に歩き出しました。
ホテルのロビーから出るなり、彼女が顔中をハテナマークにして聞いてきました。
「ねえ、隣に座ってたおじさん、誰?何者?千代田さんの知り合い?私のこと、すっごく怖い顔してにらんでたけど、どうして?なぜ、私、あんな顔されなくちゃならないの?」
私は笑いながら答えました。
「ああ、あの人ね。知り合いじゃないわ。初めて会った人よ。でも素敵な人でしょ」とにかく彼の心をひきつけていたかったら、遅刻は厳禁です。
あなたは最近、デートの時、約束の時間に遅れたことはありませんか?彼よりも早く着いたことが何度ありましたか?自分の胸に手をあててよおく考えてみてください。
もし、毎回、遅れているようなら、次回からは十分前に着くよう、自分に言い聞かせましょう。
「だって、忙しくてえ」とか「ブローに手間取っちゃって」というのは、言い訳です。
初めてのデートには、遅刻しなかったでしょう。
以前はできていたことができなくなっているのは、やはり彼に甘えているからです。
結婚相手に甘えるのはけっこうなことですが、何も遅刻して甘える必要はありません。
それくらいなら早く出かけ、彼の腕にぶらさがって甘える時間のほうを長くしたいものです。
待たせることは気持ちのないことそれから、しばらくして、またも同じようなことを感じさせる出来事が起こりました。
遅刻が原因で、知り合いのカップルが別れてしまったのです。
二人は学生の頃からの恋人同士でした。
長いこと交際していましたから、ゆくゆくは結婚するだろうと誰もが思っていました。
本人たちもそのつもりだったはずです。
結婚する時は、私たち夫婦に仲人を頼みたいとまで言っていたのですから。
けれども、結局、結婚どころか、恋人関係を解消することになってしまったわけです。
なぜだかよくわからないのですが、彼らは別れたことを報告しにわざわざわが家にやって来ると言います。
「そんなことしなくていいのよ」と、何度も言ったのですが、決意は固く、私たち夫婦は「別れの報告」を受ける羽目に陥ったのでした。
最初にやって来たのは、男の子のほうでした。
なげ彼は見ていられないくらい元気を失っていて、「なぜ俺がふられたのかわからない」と、嘆いてばかりです。
中学生の息子に「まあ、そんなにがっかりしないで。
きっとそのうちいいことあるよ」と、鵬まされていたくらいですから・彼の落ち込み方がいかに蔭だったかわかっていただけることと思います。
沈黙したまま座っているわけにもいかず、私は尋ねました。
「ねえ、何か思いあたることないの?彼女を傷つけてしまったとか、怒らせてしまったとか。
もう本当に関係の修復は無理なわけ?」少しでも可能性があるなら、あきらめるのはまだ早いのではないかと、考えたからです。
けれども、彼は強く首を振り、「わかんないっすよ。
だって、ずっとうまくいってたんだもん。
だいたい、付き合ってくれ、好きだ好きだって、迫ってきたのは向こうのほうなんですよ」と、嘆きます。
彼のほうはまだ未練たっぷりのようです。
その日、彼はすっかり悪酔いしてしまいました。
見ているこちらまで、暗い気持ちになってしまうほど、彼の落胆はひどいものだったのです。
帰り際、彼は私に頼みがあると言い出しました。
彼女に別れた理由を聞いておいて欲しいと、言うのです。
「えーっ、かなわないなあ。そんなこと、自分で聞けばいいのに」と思いつつも、がっくりきている彼の顔を見ると、いやとは言えず、私はついついうなずいてしまったのでした。
その後、すぐ、女の子のほうがやって来ました。
彼女のほうはキリリとしていて、ぼやいたり、嘆いたりしません。
早くも次の相手を東京の結婚相談所で見つけたといいますから、当然と言えば当然ですが、しょんぼりした彼を目のあたりにしたばかりだっただけに、女の子のほうが切り替えが早いんだなあと、私はびっくりしてしまいました。
これなら大丈夫と思った私は、おずおずと質問しました。
「どうして、彼のこといやになっちゃったの?答えたくなければ答えなくてもいいけどね、あんなに仲良かったのに、なぜ別れなくちゃいけないのかなあって不思議なの。
彼のほうではまだあなたのこと好きみたいだしね」彼女はさすがに顔を曇らせましたが、ちょっと考えた後、答えてくれました。
「結局ね、いつもいつもデートに遅刻してくる、彼のそういうとこがいやになっちゃったんです。いったんいやになったら、もう我慢できなくなっちゃったの」彼が言っていた通り、先に熱をあげたのは、彼女のほうだったといいます。
頼りないところもあるけれど、ハンサムだし、やさしいし、一緒にいると本当に楽しかったのだそうです。
ところが、付き合っていくうちに、彼のだらしなさがカンに触るようになってきました。
とくに、就職してから、気持ちが急速に冷めていったといいます。